青空の奇跡


「知ってるもなにも、ご近所さんだよ。
ほら、うちらの住宅街のすぐそばに一軒豪邸があるじゃん。
たしか一年半くらい前に引っ越してきたんだよ。すんごくお金持ちのお嬢様。」



家はすぐにわかった。
俺が学校に自転車で向かう時に、いつもそこを通り過ぎるからだ。

でも‥‥


「あんな人、見たことなかったぞ。」


「えっとねー、結衣‥さんだったかな?
心臓病なんだって。だから、あんま外出できなくて、学校も行ってないんだってお母さんから聞いたことがある。」


なるほど‥‥


俺は母さんともそんな世間話をするタイプじゃないし、近所のおばさんに絡まれることもほとんどない。

だから、滅多に家から出てこない“中山 結衣”という名の女性をこの日、初めて見た。






夏休みの始まり、16時すぎ

空はまだ明るかった。





< 47 / 55 >

この作品をシェア

pagetop