In The Rain
俺たちの周りだけが別空間になっていた。


マスターはそれでも、無表情にグラスを磨き続け、音楽も軽快なまま響く。



「えっ、どういう事?わたし……。」


「あのさ、わかってると思うけど、オレは好きぐらいなら誰にでも言うのよ。嫌いじゃなければね。」



カラン


店の扉は、さっきから、何人もの人を招き入れた。

オレは左目で軽く確認をする。

フラレ劇場の観客様だ。


「うん、わかってる。けど…。」


「うん、オレは何かないと、大好きは言わない。好きと大好きは違うよ。キョウコはその位置なわけだ。」


オレは少し酔った演技を交えながら話ていた。




「うん……。何ぃ〜?も〜。」


キョウコはオレの肩に軽く触った。



「大好きなのは、キョウコと娘と嫁と…。あとコイツな」


オレはカウンター向こうに人差し指と目線を向けた。



キョウコと空気が止まった。


嫁と同じ位置にされた上に目の前の人だ…。


どう思っただろう?
まぁ、いい。



「もっと言おうか…?愛してるって言わなかったよな、オレ。愛してる女は別にいるんだよ。」



キョウコはただ、オレを見ていた。



「だからさっ、オレと居ても意味ないじゃん。未来も心もなしだよ。」



トドメだな…、オレがキョウコなら泣くよ。




カラン


左目のスミには常連の顔があった。




「でも………」

でもぉ?!
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