In The Rain
廊下の窓から外を見ると季節の変わり目を感じさせた。



会議室を出て喫煙所に向かう廊下で、キョウコに会った。


「タバコですか?」

「あぁ。」

「どうしたんです?朝から支店長と…。何かあったんですか?」


「あぁ、うん、辞めるんだ、オレ。」


「えっ、なんで?ちょっと…、意味わかんない。」


意味はわかるだろ。


「色々あるんだよ。」


「えっ?なんで?いつ辞めるんですか?」


「今週いっぱいだね。」


オレはまだ喫煙所ではないのに、タバコをくわえて言った。


「急なんですね。どうして?」


いちいち、「可愛いでしょ、私」と言わんばかりの言葉と動きが、勘にさわる。
少し前までは、それも可愛いと思っていたのに…。


「週末、女と逃げるんだよ。」

それだけ言って、オレは喫煙室へ向かった。ウザかったのだ。



「ちょっとぉ。どういう事?!」


キョウコはタバコをくわえたオレを掴んだ。


「誰?いつからそんな女いたのよ?意味わかんないんだけど…。」


「ずっと前からいた、お前じゃない女と、2人で逃げるんだよ。意味わかる?」

オレは少し強い口調で言った。


「えっ……。」


少しビックリしたキョウコの顔が一気に真っ赤になった。




パンッ


「好きにすればっ…。」


キョウコは振り返る事なく事務所へ入った。


二度も叩くなよ。

同じ女に二度も叩かれたのは初めてだ。


「痛ぇよ。」





その日は常務が出張中の為か課長代理との同行以外、特に何もなかった。


常務は次の日、直に電話してきたが、理由と意志が固い事を話すと受け入れてくれた。

「いつでも、戻ってこい。」

その言葉が嬉しかった。




それから、週末まで、オレは大量の仕事をこなした。

挨拶も発表もしてないので一部しか知らないはずが、噂は広まっていた。

金曜日に挨拶する頃は、全員が知っていた。


さすがに、挨拶をする時と、最後に会社を出る時は寂しかった。
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