In The Rain

冷たい空気と涙音が部屋に響く。


最後はゆっくりと…なんて虫の良い話はなかった。


｢ヨウコ、キミはそれで満足なのか？｣


｢…………。｣


ヨウコは何も言わずボクを睨んでいた。



ボクはヒカルを抱きしめた。



｢……ヒカルにはわかんないかもだけど…。パパは恋をしたんだ。誰より愛してる人なんだ。ヒカル…ゴメン…。パパは…ヒカルも大好きだけど…その人を愛してるんだ……。ゴメン…。｣



ヒカルは泣いたままだった。





｢ヒカル………もう寝ようか…。おいで……｣


ヨウコは低い声でボクからヒカルを引き離した。


｢明日、朝一番で一度、実家に帰ります。慰謝料は要りません。ヒカルは私が実家で育てます。マンションは売って、ローンに当てます。荷物は…、あなたのは送ればいいですね。｣


ヨウコは無表情のままヒカルを抱きしめながら、ボクに言った。


｢でも……、ヨウコ……。｣


｢離婚届はどうしますか？｣


ひどく冷たいヨウコの声がボクを貫いた。


｢結婚した時にアナタに渡されたヤツにサインして出しておきますね。｣


｢……あぁ…。｣


｢結局、アナタがあの時に言ったように…、もしかしてじゃなく…、アナタは父親には成れない人だったね。｣


ヨウコはそう言うとボクに背を向けヒカルを連れて扉の方へ歩き始めた。


｢さようなら…。｣


ヨウコはそう最後にそう言って部屋から出て言った。




静かな部屋の中でボクはしばらく動けなかった。


両腕には…、まだ娘の温もりが残っていた。