In The Rain
打ち合わせでもしたのか?と驚いてしまう程に手が綺麗に左頬に入った。


口の中にサビっぼい味がして、ゆっくりと吹く風が勢いを増した気がした。



痛いなぁ、もう!!



「黒岩さん、アナタはハンを押したんでしょ。それに…。」


「あぁ?だからなんだ?」

「ミクはボクを選んだんですよ。それに、今まで寂しい思いをさせたのはアナタでしょう。」


「………、でもオレは…」


「ボクもミクを愛してます。そしてミクもボクを選んだ。アナタではない。…連れて行きます。」


「……オマエさえ…いなければ……」


「誰がどうじゃなく、結局、アナタは捨てられてますよ。」


ボクは敢えてキツい言い方をしてトドメをさした。


「それに、ミクはアナタじゃなくボクなんですよ。…諦めてください。」


黒岩は何も言わず俯いて泣いていた。


ボクは車に乗ろうと歩き始めた。


「オマエさえ…いなければ…。こ、殺してやる…。」


振り向くと黒岩は震えながら、小さなナイフを握っていた。


「殺してやる、殺して……………。」



「あぁ?……黒岩っ!おどりゃぁ、やれるもんならやってみぃや!あぁ!?」




ボクはなるべく低く太い声で、久々の広島弁で一喝した。




「うぅ…、うぁ〜ん。うぅ、うぅ……」


黒岩は泣きながらその場に座りこんだ。


「すいません、黒岩さん……。」



ボクは一言しか言えず車に乗った。




「アキト……、ゴメン。痛い?」



「大丈夫だよ。ボクこそ汚い言い方をした…、ゴメン。」



「ん〜ん、嫌な事言わせてゴメン。」



「いいよ。行こうか…。」


「うん…」



ボクはアクセルを軽く踏んだ。



少し開いたままの窓から風が入ってきた。


もう、呼び止めるモノもない。



ボクは左手でミクの手を掴んだ。
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