捧げられし姫君

王の思惑



教えられた通り平伏し、王の許しを得て顔を上げ、名と身分を名乗る。

そして、二度の拝礼。

一度目は浅く、ニ度目は深く、というのがこの国の作法だったはずだ。

ニ度目の深礼が終わり、階上を見上げる。

これで、あの男が退座すれば終わりだ。


イードは何も言わず、王座から勿体振ったように立ち上がる。

ファラーシャは内心ほっとしてその様子を見守った。


しかし、イードは立ち上がっただけで、一向に奥へ下がろうとしなかった。

それどころか階上からファラーシャを注視している。

階下の臣下たちの小さなざわめきがファラーシャの耳にも届く。


たっぷりと間を置いた後、イードは深く息を吐いた。


「美しい…」


は、と思わず漏れそうになった声を慌てて飲み込む。


「なんと美しい姫君なんだ」


状況が飲み込めずに固まるファラーシャの元へ、イードが王座から降りて来た。

王が退座したらファラーシャも下がって良いはずだったが、王が階下に降りて来た場合はどうすればいいのだろうか。


判断に迷っているファラーシャの両手を、イードが強く握った。


「ファラーシャといったな。こんな美しい姫君に会うのは初めてだ」


大袈裟な身振りでイードが感動を表現すると、謁見の間のざわめきが一段と大きくなる。


「まさか陛下のお目に叶う姫君がいるとは…」

「すぐにあの姫君について調べろっ」

「なぜ、あのような小国の姫君に目を留められたのだ」


様々な思惑がファラーシャの耳をかすめていった。

イードにも聞こえているだろう。

たが、気にしている様子はなかった。

ファラーシャだけを熱に浮されたような表情で見つめている。


「麗しき姫君、そなたを今宵の相手に望もう」

「え…えぇ…?」


突然の申し出に、ファラーシャはイードの顔を上目で伺う。


後宮で会ったのは確かにこの男だ。

間違いはない。

けれども、言動があまりにも違う。

真逆と言ってもいい。



何がどうなっているのだろうか。



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