捧げられし姫君
「陛下はどんな方なのかしら…」
出来る限りしおらしく、不安げな様子を装って聞いた。
「ご立派な方です」
意外にもファラーシャの腕に香料を塗っている女から答えが返ってくる。
無視されるかと思ったのに。
「若いと聞いていたけれど、本当にお若い方なのね」
この感想に対する返事はなかった。
次は、別のところから攻めていかなければならない。
「何か、こうした方がいいとか、こういったものがお好きといったことはあるのかしら」
「……さて。私共には近づくことすら叶わぬお方ですので。お羨ましい」
不意に、女の冷たい声の中に悪意に似た感情が混じる。
なんらかの感情を女たちから受けるのは初めてのことだった。
押し隠された、嫉妬、羨望、そして憎しみ。
入り混じった複雑な思いが、女の眼差しに宿っていた。
ファラーシャは気付かぬふりをする。
ここは後宮なのだ。
王が来るのを、ただ待ち焦がれる場所である。
その幸運を手に入れられる者の数は多くない。
その多くない者の一人が、ファラーシャなのだ。
女の感情の意味は、そういうところから来ているのだろう。
いちいち気にしていては、駄目だ。
そもそも、女たちが想像するような望まれ方ではないのだから。
「でも、残酷な方だというお噂があるし、不安だわ…。他の方はどのように接しているのかしら」
「あなた様は、何もせずとも良いのです」
「陛下はあなただけではなく、後宮の方々の部屋を渡り歩いておられる」
「深い心配はせず、無心でお勤め下さいませ」
方々の部屋を渡り歩いている…。
そういえば、初めて会ったのも後宮だ。
よほどイードは後宮が好きなのだろうか。
あまり、好色そうには見えなかったのだが。
「まあ、好色な方なのですね。意外だわ」
「……好色というよりは飽きっぽいというべきでしょうか」
先程立派な方だと言ったのは、どうやら建前だったらしい。
恐らくこちらが、女たちが抱くイードの本当の評価なのだ。