捧げられし姫君
女たちと謁見の間での臣たちの言葉から、イードが誰か一人を寵愛しているわけではないことが分かる。
確かまだ正妃の座も空いていたはずだ。
いくら王が若いと言っても、そろそろ決まってもいい頃合いの気がする。
「正妃候補の方っているのかしら?」
何気なくファラーシャが問うと、女の手が止まった。
「不相応なことを考えるものではありません」
ぴしゃりと言われ、はっと気付く。
情報収集に夢中になって、まるで、正妃を夢見る姫君のような質問をしていた。
「すみません、そんなつもりじゃ…」
「夢を見れば、夢が破れた折に、よりつらい思いをするだけです」
女は淡々と言い放ち、ファラーシャに手際よく衣装を着せていった。
謁見の時とは違う、白く、薄手で肌触りの良いものだ。
紐を解けばすぐに脱ぎ着ができる。
うっかりしていると脱げてしまいそうだった。
部屋へ帰ると、女たちは役目が終わったといわんばかりにさっさと退出する。
もう少し情報が欲しいところだが、仕方がないだろう。
ファラーシャは、またぽつんと一人部屋に取り残される。
「…そういえば、謝るつもりだったのよね、私」
すっかりタイミングを見失ってしまったけれど。
それもこれも、イードの意味不明な口説き文句のせいだ。
来たら早々に何を考えているのか問い詰めなければならない。
窓の外の日が少しずつ陰りだした。
すぐに太陽は地平線へ隠れてしまうだろう。
そうして夜が、やって来る。