捧げられし姫君
ランプの光に煌めいたのは、青白い刃だった。
ざっくりと、天幕に刺さっている。
ファラーシャは息を飲んだ。
どうしてこんなものが刺さっているのだろうか。
窓の方から、誰かが投げたとしか考えられない。
起き上がろうとするファラーシャを制して、偽のイードのは刃の飛んできた方角へ、短剣を投げた。
剣を避けるように、闇がうごめく。
黒い衣を着た人影が、そこに、いた。
「侵入者…っ」
ファラーシャの声に偽者が本物よりも誠実な顔をして、小さく頷く。
そして、衣の下に隠し持っていた剣を抜いた。
キンッと高い音が響く。
剣と剣が打ち合った音だ。
二つの影が重なっては離れ、また重なる。
「いけない…」
ファラーシャは自身の短剣を探り当てた。
明らかに、侵入者の動きの方が速いのだ。
少しずつ押されていくのが分かる。
間合いを取るため、再び二つの影が離れた。
「伏せてっ!」
瞬間、ファラーシャは反射的に叫んでいた。
警告を受けて偽者がしゃがむのと同時に、短剣を黒い衣へ向かって投げつける。
ずぶり、という音が聞こえたような気がした。
それほどに深く、ファラーシャの短剣は黒い人影に突き刺さった。
「……ぅっ」
噛み殺した呻きが人影から漏れる。
その隙を狙って、偽者は侵入者の手から剣をたたき落とした。
そのまま、両腕を捩りあげる。
「誰の手の者だ、言えっ」
侵入者は目元以外の全てが黒い布で覆われている。
性別、年齢はおろか、表情さえ分からなかった。
だが、黒い衣の向こうの瞳は、にっと笑ったように目を細めてファラーシャを見上げた。