捧げられし姫君
真実の代償
ファラーシャが頷くと、イードは手を投げやりに降ろした。
「俺は、男の兄弟の中では上から九番目で、母の身分もさほど高くない。
だから、いくら王子とはいえ、王になることなどないだろうと思っていた」
始まったのはイードの身の上話のようだ。
「我が国は王位を生前譲位できる。つまり、王が生きているうちに、次の王に王位を譲ることが出来るわけだ」
逆に王は死ぬまで王という国もある。
ファラーシャの名前の長い母国などがそうだ。
女には継承権がないため、ファラーシャの父が死ねば直系であるファラーシャではなく、現王の弟の叔父が継ぐこととなる。
「俺が十四、五の時、体調を崩した前王が次王に俺を指名したらしい。
俺はその場にいなかったから詳しくは知らん」
ふっとイードは自嘲するように息を吐いた。
「なぜ、俺が?」
話の通りだとすると、イードの上には他に八人の兄がいるはずである。
そして、十五前後のイードよりももっと相応しい年頃の者がいるだろう。
ファラーシャですら分かるのだから、イードはより深く疑問を感じたはずだ。
「俺が希代の傑物で前王の信頼が厚かったならともかく、父親とはいえほとんど話したこともない有様だったのに。
…そして、そのまま前王は死んだ。毒殺だったらしい」
「それじゃあ貴方には…」
イードには、王である理由が、ないのではないだろうか。
ファラーシャは喉元まで出かかった疑問を飲み込んだ。
「……俺は前王が何を望んでいたのか、知っている」
夜の闇の下、皮肉めいたイードの表情が一層影を増した。