捧げられし姫君
随分な言いようである。
イードらしいといえば、イードらしいのかもしれない。
「その人はなんて答えたの?」
ファラーシャが尋ねると、イードは視線を移した。
「本人から聞くといい」
「自分が何かを成せるなどという考えはただの思い上がりだ、とお答えしました」
静かに答えたのは、イードの後ろに控えていることの多い、サフと呼ばれている男だった。
ファラーシャはイードとサフを交互に見る。
今の話に出てくる文官とはこの男のことだったらしい。
本人を目の前にして、散々な言い草だ。
裏を返せば、気安さの現れだったのかもしれない。
「…ですが、思っていたよりも頭が悪くないようでしたので、この方に賭けてみる気になったのです」
しれっと付け加えるサフにイードが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
サフの方も食えない性格をしているようだ。
一方的に言われっぱなしというわけではないらしい。
「どちらもどっち、ということね」
「どういう意味だ」
「どういう意味ですか」
二人同時に言われ、ファラーシャは言葉につまる。
後ろでアルフェが一人声をあげて笑った。
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
「…三人だ」
突然、イードが弱音のように言葉を漏らした。
眼差しは険しい。
「俺が王になってから、毒味だけで三人死んだ」