捧げられし姫君
「三人、も…」
いくら一国の王の毒味とはいえ、多すぎる数字だろう。
ファラーシャの母国では考えられない。
「正直なところ、今の俺には信用出来る駒が足りない。
と、いうわけで、話を聞いたからには、お前にも協力してもらう」
イードはファラーシャを見て嫌味ったらしく笑った。
「協力って…」
「真実はこうだ。最近俺の周りを煩い小蝿がちょろちょろしていて、ゆっくり眠れやしなかった。
そこへ馬鹿正直に侍女も連れずにやってきた、利用価値の低そうな小国の姫君がのこのこやってきたわけだ。
様子を伺っていたが、この国の内情に精通しているわけでもなさそうだったので、そいつを使って罠を張ることにした。
こんな見え見えの罠に引っ掛かるか心配だったが、律儀に暗殺者はやって来てくれたわけだ」
ファラーシャが口を開く前にイードが一気に畳み掛けた。
早口だが、かなり失礼なことを言っているような気がするのは、気のせいではないだろう。
「俺は心が痛い」
突然、芝居がかった仕種でイードが言った。
表情は苦悩に満ちている。
「我が寵姫を暗殺しようとする者がいるなんて……。
と、明日から官共の前で嘆くから、心しておけ」
素晴らしい変わり身の速さでイードは元のイードに戻った。
「明日からお前に侍女をつける。お前に対して何か行動を起こした者がいれば、全てそいつに伝えろ」
理解するより速く進んでいく話に、ファラーシャは口が挟めないでいた。
要約すると、囮の寵姫になれ、ということらしいが…。
「ちょっと待って。それって凄く重要で、大変な立場なんじゃ…」
返事はない。
だが沈黙は、肯定を意味している。
イードは楽しげにファラーシャの顔が青くなるのを見ていた。
「身辺には気をつけろよ、ファラーシャ」
目の前の男が、ただの青年だったら、横っ面を引っ叩いてやりたかった。