捧げられし姫君
シュカ族
翌日。
目覚めたファラーシャは、知らない顔が部屋にいるのを見て、飛び起きた。
飛び起きたファラーシャに、にっこりと笑ったのは小柄な少女で、黒を基調とした民族衣装を着ている。
黄と赤と藍で縁取られたそれは、まつろわぬ民と呼ばれているシュカ族のものだ。
シュカ族は、基本的にどこの国にも属さず、様々な国を渡り歩きながら暮らす特殊な民族である。
そのシュカ族の者が、なぜ自分の部屋にいるのか分からず、ファラーシャは瞬いた。
「おはようございます、ファラーシャ様。よく眠れましたか?」
少女が朗らかな声で尋ねてくる。
「あの、貴女は…」
「申し遅れました。私はイツル。これからファラーシャ様のお世話をさせて頂く者です」
言いながら、ぺこりとイツルがお辞儀をした。
ファラーシャは、寝起きの頭で、昨夜イードの言っていた侍女が、目の前の少女であると知る。
「随分、若いのね」
なんとなく、もっと年上の、冷たい性格の侍女が来ることを予想していた。
しかし、イツルは十五歳前後で、にこにこと可愛らしく笑っている。
なんだか拍子抜けした。
「すみません、こう見えてファラーシャ様より、五つは年上だと思います」
「…えぇっ!?」
「シュカ族は、東方の血が混じっているせいか、他民族よりも若く見えてしまうようで…」
いつも子供に間違えられます、とイツルは微苦笑を浮かべた。
「ごめんなさい、シュカ族の人に会うのは初めてだったから」
もちろん、ファラーシャの母国にもシュカ族はいる。
けれども、王宮に暮らすファラーシャには縁遠い存在だったのだ。
「いえ、お気になさらず。子供に見えた方が便利なこともありますので」
再び邪気なくイツルが笑う。
その笑顔にファラーシャはふと思い出した。
シュカ族は国の裏側と密接に関わっている者たちだということを。