捧げられし姫君
「あなたも一筋縄ではいかないってことかしら」
折角なら、仲良くなりたかった。
けれどもイードがどんな落とし穴を掘ってくるのか分からないままでは、安心できない。
ファラーシャの言葉にイツルは少し困ったような顔をした。
「なんと申し上げればいいのか…、ええと、まず私はファラーシャ様を害すことはありません。
これは絶対に、です」
力強く言うイツルをファラーシャはじっと見つめた。
嘘を言っているようには見えなかった。
「…分かった、信じるわ」
「有難うございます」
にこりと笑うイツルは、どう見ても年上とは思えなかった。
「…むしろ逆なんです。イード様は、ファラーシャ様への信頼の証として、私を傍につけたのです」
「信頼の証?」
イツルには、何か秘密でもあるのだろうか。
「私は、シュカ族の薬師です。
もし、ファラーシャ様の身に何かあれば、すぐ対処出来るよう、控えておりますので」
「……。それってつまり、私も毒殺される危険があるってことよね…」
昨晩話していた中に、毒で死んだ者の話があった。
前王や、イードの毒味たち。
「シュカの薬でさえ解毒できない毒もありますので、口に入れる物は、例え水一滴でもご注意くださいませ」
さらりと肯定するイツルに、ファラーシャは乾いた笑みを返すことしかできなかった。
「でも、イードは私以上に不自由な生活をしているのね」
ファラーシャですら警戒しなければならないのなら、イードはもっと大変だろう。
性格に関しては、非常に、非常に、いけ好かない奴だが、今はその立場に強く同情した。