捧げられし姫君


「それは、ともかく、だ」


真意を読み取ろうとするファラーシャのことなど意に止めず、イードは話を変えた。

人の命に関わるかもしれないというのに、相変わらず勝手なことだ。

このやり口に慣れてしまった方が楽なのかもしれない。


「寝る」

「ええ!?」


悩むファラーシャの横でイードは前触れなく、寝台にごろりと転がった。

そのまま体を丸めると本当に寝息を立てはじめる。

ファラーシャは目を丸くしたが、眠ってしまった相手に文句を言うわけにもいかない。


「本当に寝ちゃったわ…」


眠るというよりは、昏睡している。

よく見れば、イードの瞼の下には隈が深く刻まれていた。

迷った末、幼子にそうするように、腹の辺りへそっと薄手の毛布をかける。


再び、ファラーシャの部屋の戸がこつこつとなった。

返事をする前に、顔を覗かせたのは、イードと同じ格好をした青年である。

光の下で見ると、はっきりと違いが分かった。

これは、アルフェの方だ。

アルフェはファラーシャに向かって、小さくウィンクをして、サフの元へ寄った。


「サフ様、そろそろ行きますか」

「あぁ」

「……あの、この人はどうすればいいのかしら」


去ろうとする二人に、ファラーシャは呼び掛けた。

このまま放っていくつもりだろうか。

それは、あまり、嬉しくない。



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