捧げられし姫君


振り返ったアルフェが笑う。

「我らが王は、最近ろくに寝てなくて。寝かせといてやってください。

寝てれば無害なんで」

「無害…」

「アルフェ、そんなことは冗談でも言わないように」


イツルが窘めると、アルフェは肩をすくめた。


「あまり寝てないの?」


イードは子供ように眠り込んでいる。確かに無害そうだ。


「ここ最近、宴の準備やら何やらあったから。

……ここならイツルもいるし、大丈夫だろうってことになって。

その御方、少ないから。安眠できるとこ」

「そうなの」


言ってくれるば、寝台の一つや二つ、貸さないファラーシャではない。

問題は、言ってくれれば、の部分がイードから欠けていることだ。


「言ってくれなきゃ、分からないわ」


勝手に来て、勝手に話して、勝手に寝て。

大国の王というのはこういうものなのだろうか。

…少なくとも小国の王である父は違った。

というよりも。
明らかに、母の方が強かった。


「少し、イツルを借りても構わないだろうか」


サフがファラーシャの機嫌を伺うように聞いた。

珍しいことだ。

イツルは、サフの言葉に複雑な顔をしている。

嫌そうというよりは、困っているような、なんともいえない表情だ。


「イツルが構わないなら、私は構いませんけど」

「それでは、少し」

「いってらっしゃい」


ファラーシャが三人を送り出すと、最後のアルフェがひらひらと片手を振った。



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