捧げられし姫君
ヤースィム卿が去った後、ファラーシャはソファーに座ることを許された。
イードとサフの向かい、先ほどまでヤースィム卿が座っていた場所である。
「あの男をどう思った」
「どうって…。正直に言えば、あまり頼りになりそうには見えなかったけど」
「そうだな。前王も大してあの男を取り立てたことはない」
あっさりとイードが認めた。
ファラーシャの印象はさほど間違っていないようである。
「だが、あの男は小心な割に野心家なところがある。
俺側につくことは、自分の名をあげるチャンスだ」
「確かに、そうね」
若き王の周りには人が少ない。逆手にとれば、台頭するチャンスも多いのだろう。
「俺は嘘の上手い奴が、味方の顔をして近づいてきて、寝首をかかれるのが一番嫌だ。
あの男なら、もし裏切ったとしても、俺に害をなすほどのことはしてこないだろう」
「それで、あの方を選んだの?」
「…野心家だからな。自尊心か高く、ついでに身分も高い」
妙に確信的だ。
「何がいいたいの」
「技量の問題という意味だよ。
使えない奴を使えないと嘆くのは、使う側に技量が足りんからだ。俺はそう思っている。
使える奴を使うのは、誰だって使える。つまり、裏切りやすいということだ」
裏切られるのが嫌だとイードは言っていた。本当に味方が少ないのだろう、この若い王は。
「裏切ってくれるなよ」
イードは余裕ぶった態度をとっている。
だがそれは本当は虚勢を張っているだけなのかもしれない。そうしなければ、崩れてしまうものなのかもしれない。
「裏切らないわ」
ファラーシャはイードの目を見て答えた。