捧げられし姫君
この国の王、ということは、ファラーシャが嫁ぐ相手でもある。
この、青年が…。
ファラーシャは、未来の旦那様、なんて生易しさの似合わない関係になるだろう男をまじまじと見つめる。
年は、ファラーシャの一つ上の十八だったはずだ。
それよりも若く見える。
悪く言えば、子供っぽい。
一国の王、しかも大国を背負う身とはとうてい思えない。
自分の父と比べても、威厳が足りていなかった。
「あなたが、王様なの」
「辺境国でも、俺の名ぐらいは届いているだろう」
「……これは失礼致しました。とても、噂に聞く方とは思えませんでしたので」
ファラーシャは嫌み半分で答える。
青年は、イードという名に付き纏う、暗い噂の元にはどうしても見えなかった。
イードは気にした様子もなく、僅かに目を瞬く。
「噂というとガルディエスへの侵略、もしくは叔父上暗殺辺りか」
「…どちらも」
ゼルエスの若き王イードは十五で即位し、そのまま隣国ガルディエスへ侵略し、見事に落とした。
そして、己の政敵である叔父を暗殺したと言われている。
ただの傀儡になってもおかしくない年頃の若き王の手腕に、近隣諸国は震えた。
もちろん、ファラーシャの母国もだ。
「ふぅん。なるほど」
イードは勝手に何かを納得する。
「でも、貴方は噂のような人物に見えないわ。良い意味でも、悪い意味でも」
ガルディエスへの侵略は凄惨を極めたらしい。
良い意味で、そんなことをするようなは見えず、悪い意味でそこまで出来る手腕がないように感じた。
あくまでファラーシャの主観だったが。
その言葉を聞きながら、イードはファラーシャを無表情で一瞥した。
ひどく温度の低い眼差しだった。
ファラーシャは僅かに怯む。
「いいことを教えておいてやろう」
イードはファラーシャの顎を掴むと、口元だけ笑っている自身の顔を寄せた。