捧げられし姫君
第一章





あまり眠れないうちに、朝がやって来た。

どこでも眠れることが、ファラーシャの特技の一つだったが、残念ながら今日は発揮できなかった。


王と、謁見する日。

儀式的なものだろうと予想している。

だが、あの男と再び顔を合わせるのは、気が重かった。


「多分、私のことなんか忘れているわよね!」


話し相手がいないので、自分で自分を励ましてみる。

が、虚しくなるだけだった。


「…例え向こうが覚えてなくても、謝らなきゃ」


やはり、人として失礼な態度は謝るべきだろう。

そう心に決め、ファラーシャは準備に取り掛かった。


同時に、誰かが戸をノックする。


「何かしら、開いているわ」

「失礼致します」


入ってきたのは、三人の女だった。

朝、ファラーシャの食事を運んできた者よりも、身なりが良い。


「謁見の準備をしに参りました」


三人とも揃って表情が乏しく、何を考えているのか良く分からなかった。


「ええと、準備なら自分で出来るのだけれど」

「いえ、規律ですので」


突き放すような返事をすると、女の一人がファラーシャの衣装を脱がしはじめる。


「そ、それぐらい自分で出来ますっ」


国にいたころだって、侍女が手伝うのは髪を結うことぐらいだった。


「我慢して下さいませ」

「我慢と言われても…!」


衣装を抑えてうずくまるファラーシャを、女が二人掛かりで立たせると、遠慮のない手つきで衣装を這いだ。

そして、さして興味のない様子で持ってきた衣装を手早く着せていく。

衣装が終わると、今度は座らされ、ファラーシャの意志など無視するかのように髪を結いはじめた。

ファラーシャは強く抵抗出来ず、されるがままである。

まるで物のような扱われ方だ。

試しに話し掛けても、返ってくるのは、素っ気ない返事だけである。

三人は淡々と作業をこなしていった。



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