捧げられし姫君
頭が、重い。
女たちの態度のせいもあるが、何より物理的に重かった。
この国では、身分が高ければ高いほど、着飾る。
分かっていても、小国の王女には一生縁のないような装飾具の数々に、ファラーシャは苦笑いしか浮かばなかった。
「こんなにつけるものなの…」
「謁見する際はこのぐらいつけて頂かないと。見苦しい格好の者を王の御前に出すわけにはいきませんので」
「……そう」
どこかしら棘を感じる言い方だ。
まるで、ファラーシャが見苦しいとでもいいたげな。
裕福な国の姫君の格好と比べれば、見劣りするのは言われなくとも分かっている。
「それでは、お時間になったらお呼び致しますので」
やっと仕度が終わり、女たちが退出していった。
それを見届け、ファラーシャは大きく溜息をつく。
鏡の中の自分は着飾りすぎて、自分ではないみたいだった。
名前の長い母国は、国が小さいこともあり、あまり裕福な暮らしはしていなかった。
それどころか、王女は国の婦女子の手本となるべきと教えられ、剣術や馬術など、おおよそ深窓の姫君には縁遠いことを叩き込まれている。
ある時ファラーシャは、物語のお姫さまは王子様を待っているだけなのに、どうして自分はそうではないのか、と母に尋ねたことがあった。
母は困った顔をして何も答えなかった。
が、いつの間にかファラーシャの読んでいた本の、最後に王子様が登場し姫君を救うくだりが、姫君が自分で魔女を倒しに行く話に書きかわっていた。
明らかに、母の字で。
……よく考えたら、元の話も王子様は眠っているお姫様にキスをしただけで、特別何かをしたわけではなかったのだけど。
「自分でなんとかしなさいってことよね…」
再びファラーシャは溜息をつく。
幸せがどんどんと減ってしまいそうだった。