季節越し咲く桜花



しかし、数秒待つが相手は何も反応を返してこない。此方に近付きもせず、返事もせず、ただ立っているだけ。


「…何だよもー、シカトかよ。」


普通に考えれば人違い。けど、当時の俺は「あれはユキだ。」と信じて疑わず、挙げ句に無視されたと思い込んで、勝手にイライラしていた。


「おい、ユキってばー!」


けど、年端もいかない子供――あくまでも、俺の場合――にとってはその程度の出来事は些細なことで。
早く一緒に遊びたかった為に、俺は比較的大きな声を上げて入口に向かって駆け出した。

少し近付けば立っていたのはユキではなく全くの別人、しかも女の子であることに気付いた。が、次の瞬間――


「うわあぁぁあぁっ?!」


――転けた。何もないところで。盛大に。しかも顔面から。

正直な話、かなり痛い。けど、いくらまだ子供とはいえ、男に生まれたからにはこんな公衆の面前で感情に任せて泣きわめくわけにもいかない。

歯を食いしばって痛みに耐え、涙を堪えて体を起こした。


「…大丈夫ですか?」


突然降ってきた声に顔をあげてみれば、そこに居たのはさっきの女の子。

無愛想、無表情に俺の顔を覗き込む彼女はかなりの美少女。

虚ろ気で、なのに力強いその瞳から目が離せない。痛みなんか忘れて、俺は彼女に見とれていた。


一目で、恋に落ちた。


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