深淵
 キョウスケは言われるがままジャケットを脱ぎ捨て、ゆっくりと両手を突き上げた。                                 

「そのまま前に進んで、ソファーがあるから座って」                        

 男はキョウスケの肩を優しく押して、さらに指示を出した。                                

「いやー悪いね。君が相手とはいえ、少しは警戒してみせないと」                              

 キョウスケが素直にソファーに座るなり、男はジャケットを拾いながらそう言った。                                 

 タクシーの運転手が言っていたように、男は身長が高くて細く、ストレートの長い髪が印象的だった。                                     
 キョウスケは舐めるように男を見ている内に、あることに気がついて口を開けた。
< 101 / 175 >

この作品をシェア

pagetop