深淵
 キョウスケが理解を示したそのとき、センセイは時計に目を落とし笑みを浮かべた。                                 
 それは絵画などで見る悪魔に近く、能面のように何の意識も感じられない。                         
 まるで不気味。                            
 その言葉以外で形容のできない笑みはキョウスケの体を硬直させた。                            

「話を戻すよ。臆病であるということを認識するだけでは、理想の殺人者とは言えない」                                
「理想・・ですか」                           
「そう。最も重要なのは、殺したいという欲求から始まって、殺したという結果に満足して終わる。そういった単純かつ綺麗な“純粋な殺意”を保つことだよ」                        

 そのセンセイの言葉にキョウスケは驚きを隠せなかった。
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