深淵
 センセイの眼光は鋭さを増し、キョウスケを睨みつけるように、息を荒くしながら言葉を続けた。




「そして人間の非力さを知り、冷静で慎重である臆病さを根幹にし、感情を持ち合わせた知的な者でなければならない」                              

 センセイの緩急をつけて放たれる言葉は自然と、でもどこか強引にキョウスケの口を開かせることをさせなかった。                   

 そしてそれは、何か他に余計なものを考えさせることをさせないような、不思議で強烈な空気を漂わせた。                       


「・・そんな人間がいるとしたら、それはおよそ人智を超える存在だ。でもそれが理想なんだよ。俺はそれを求めたんだ」                            


 そう言ってセンセイはゆっくりと椅子に座り直した。                                   
 キョウスケは呆気にとられ、口を僅かに開けて惚けたようにセンセイを見つめていた。
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