深淵
・・やっぱりこの人は凄い。




 センセイが時計を見て笑ったことに対しての疑念はすっかり姿を隠し、キョウスケはただただ感嘆した。                               
 それはセンセイが掲げる殺人者の理想像が、キョウスケの中にあった物足りなかった何かを満たしてくれたからだった。                             

「求めてきたが、俺はその理想には届かない」                           

 キョウスケが妙な高揚感に包まれている中、不意にセンセイは呟くような小さな声で言った。                             

「えっ?どうしてです?センセイは最も理想に近いはずです」                                

 その言葉に驚いたキョウスケが出したその声は、珍しく大きいなものになった。                            


 そう言ったセンセイはキョウスケを見て、ゆっくりと微笑んだ。
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