深淵
「・・複雑だな。理想に最も近い君にそんなことを言われるなんて」




・・俺が?                               

 センセイが放った言葉はキョウスケを戸惑わせ、疑念を生じさせた。                            

「俺は“純粋な殺意”を持ち合わせていなかったんだよ。常人と変わらない・・恨みによって俺は殺意を形成したんだよ」                             

 センセイは缶コーヒーを口に含んで、「やっぱり不味いな」と小さな声で言った。                                  
 それはどこか物悲しく見え、一瞬時間が止まってしまったような感覚をキョウスケは覚えた。                             
 恨みによって形成された殺意は不純で、理想には程遠い。                                 
 センセイはそのことに気がついて、キョウスケに羨望していた。
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