深淵
 キョウスケは白い煙をゆっくりと吐き出しては、大きく息を吸っていた。                          
 シンドウをどう殺すべきか、自分の安全をどう確保すべきかキョウスケは悩んでいた。                                

「そんなに悩むことはないよ」                                  

 時折険しい表情を見せるキョウスケにセンセイは柔らかな声でそう言った。 



「彼がどんな者であろうと、人間という生物であることには変わりはないよ」                         

 センセイのその言葉をキョウスケはすぐに理解した。                                   
 どんなに異常な精神であろうと、鈍器で頭を殴れば、あるいは刃物で心臓を刺せば死ぬ。



 昆虫のように外側が固いわけでも、ましてや空を飛べたりするわけでもない。                        
 人間は人間でしかない。
< 152 / 175 >

この作品をシェア

pagetop