深淵
「これさえあれば」                           

 キョウスケは笑みを浮かべ、そのメモをジャケットのポケットに入れた。                          

「あー、忘れるところだった」                                  

 そう言うとセンセイはまたバックを覗き込んで、小さな銀色のケースからフラッシュメモリーを取り出してキョウスケに渡した。                         

「これは?」



「もうこうやって講義することはできないからね。それには色々、論文みたいな物とか資料が記録されてるんだ。ほぼ独学だけどね」                                 

 センセイは微笑んで「あとはキョウスケ次第だ」と言葉を続けた。                             

「俺次第?」



「そう。これから色々学ぶんだ。法律・心理・工学とか色んなものに目を向けてキョウスケの肥やしにするんだよ」




 そう言うとセンセイはキョウスケの額を人差し指で軽く突いた。
< 154 / 175 >

この作品をシェア

pagetop