深淵
「はい。・・残念です」




 自分の知的好奇心を満たしてくれる人物がいなくなると思うと、キョウスケにはつまらなかった。



 もっと聞きたいことがあった。



 そしてキョウスケは議論して、そしてセンセイに誉められたかった。




「そうでもないかもしれないよ。殺す予定のある男が、俺に殺されなかったとき、その男は必ずキョウスケの前に現れる」




 悲しみを見せたキョウスケにセンセイはそう言って、また額を二、三度突いて微笑んだ。




「どんな・・どんな男なんです?」                                

 キョウスケは堪らず、少し大きな声でセンセイに訊ねた。




 それはキョウスケにとって、両親を次男に奪われたような気分になった長男のような、嫉妬にも似た感覚だったのかもしれない。                         

 センセイはキョウスケの頭を撫でて「それはそのとき自分で確かめて」と言った。
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