深淵
「造るつもりだったのか?・・まさかな」                 


 異常犯罪者を作為的に生まれさせることは、ひどく手間の掛かる行為だ。



 そんなことを、たとえセンセイが研究熱心であっても、行うとは考え難い。   


 少なくともそんな状況は、個人を尊重する風潮が濃くなるにつれ、自然と増えていく。



 そう考えたキョウスケは、自分が考えつくくらいならセンセイの思慮の範囲内だと思った。




・・それなら、何のための研究なんだ?      



 キョウスケがセンセイの論文と格闘する中、携帯が小刻みに震えた。




“シンドウだ。セカンドは死んだ。次はゼロを殺す。お前は俺に従うか、俺に殺されるかの二択しか無い。一週間待ってやる。それまでに答えを聞かせてもらう。”




 その高圧的なメールにキョウスケは思わず笑い声を上げた。




「わかり易い男だよ、ほんと」




 そのメールの意図は、もちろんメールの内容が真意であるが、おそらく先制攻撃のつもりだろう。
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