深淵
「まずい・・血が乾いてきた」          



 セカンドを殺した郊外の家に着くと、シンドウはジャケットを脱ぎ捨てネクタイを外し、冷蔵庫に一目散に向かった。



 吐息は荒く、額からは冷や汗が出ていた。



 シンドウは冷蔵室のドアを荒々しく開けると、奥の方に手を入れて円柱型で間口の広いフタのついた瓶を取り出した。




「はっ、はっ・・良い具合だ」




 フタを開けると直接瓶に口をつけて、中のドロドロとした液体を喉を鳴らしながら飲んだ。




「・・生き返る・・・」




 シンドウは瓶をテーブルに置くと、椅子に座ってタバコに火を点けた。


 口にくわえたタバコの白いフィルターは、赤い液体が染み込んでいった。




 シンドウが飲んだのは、狩りで仕留めた人間の血だった。




 人間をここに持ち帰るとシンドウは血を絞り出し、丁寧に瓶に入れて専用の冷凍庫に貯蔵していた。




 飲む日はそこから瓶を取出して冷蔵室に移して、自然に融けてから血を口にしていた。
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