深淵
「・・ナイフは俺に向けないでくださいね」                            

・・向けたら殺してやる                         

 キョウスケは静かにそう言ったと同時に、左足を一歩後ろに下げた。                            

「そうだな・・今日はやめておく」                                

 手にしたナイフを戻し、シンドウは目を閉じてそう吐き出すように言った。                         

・・意外だな。                             

 キョウスケはシンドウがナイフを下げると、「後片付けどうします」と声を掛けた。                                 

「俺がやっておく。帰っていい」                                 

 シンドウは死体の四肢を切り、背を向けながらいつものように声を出した。
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