◆太陽のごとくあいつは◆
観客のざわめきでコートが見える方へ戻ってきた晶螺と美夏もこれを見ていた。
美夏はただショックな顔をしていたが、晶螺もまた気づいていた。
『あいつ…なんか、変だ様子が』
『ぇ?』
『見ろよ。顔もあんなに青ざめて。
筋肉もあんなに硬直してる』
『緊張してるのかな?
でも1次はあの子もっと堂々としてたような…』
『なんかあったんだ。
まるで体の内側から手足をピンと糸で引っ張られてるみたいに、
思うように動けてないみたいだったじゃん』
『ん~…』
晶螺はなんとなく察しがついていた。
昨日、麻美から聞いた話、あれが本当なら…もしかしたら、あいつかもしれない…
一方、菊池は鞄の中からタオルと水を出した。
『篤!ほらこれ…』
だが、そこに座っていたはずの田辺はいなくなっていた。
コートにもどこにもいない。
『…ぇ………あつ、し…??』
菊池は声を震わせた。
『ぁいつ、まさか…』
晶螺も声を漏らした。
そう、田辺篤は自分の体に限界を感じ、恥をかくのがいやらしく…
どうやら『つまんない試合』と言いながら去ってゆくたくさんの観客たちに紛れて逃げ出し、
試合を放棄したのだ。