夏休みの間ずっとここに来ているけれど

僕は他の誰とも仲良くなる事はなかった

シンちゃんも、マユも、

他に何人か仲良くしている人がいるみたいだった

多分ここにいる人達はみんな僕より年上で

僕は年上の人と上手く接する事が出来ない。

それにきっと、僕のような面白みの無い奴を

相手にしてくれる人はここにはいないだろうし。


だから、こうやって、シンちゃんとマユが

遅れて来る時は僕は一人で時間を持て余してしまう。


僕は自分に自信がない。

当たり前の家庭に育って、当たり前に学校に行って

当たり前に日常を過して、当たり前の話しか出来ない

だから僕にとってシンちゃんは憧れの存在だった。

僕はシンちゃんの後をくっ付いて歩いた。

授業をサボろうと誘われたら授業をサボった。

机に彫刻刀で字を彫ろうと言われたら彫刻刀で彫った。

赤いスニーカーを履いて来いと言われたら赤いスニーカーを履いて来た。

僕は傍から見ればシンちゃんのパシリのようだと思う。

事実、僕もシンちゃんのパシリのつもりでいた。



中1の音楽発表会の練習でみんなで「さっちゃん」を

歌っている時、音楽の先生が

「歌っている時の顔が恐いぞ!もっと楽しそうに!」

そう僕に言ってきた。

みんなは僕の方を見てゲラゲラと笑った。

初めての音楽発表会でクラスの緊張はピークに達していた時だった

だから音楽の先生はその緊張を解き解そうと僕に冗談まじりに絡んで来たのだ。

僕はドキドキする心臓を押さえ込みながら澄ました顔でその言葉を聞き流した。

「謝れ!」

突然怒鳴り声が聞こえた

次の瞬間には

シンちゃんは音楽の先生の上に馬乗りになって顔を殴りつけていた

「一生懸命している人間をバカにするな!」

シンちゃんは何度も先生の顔を殴りつけた

女子達の叫び声が教室中を包む

僕は恐怖で体が固まってゆく中でシンちゃんの声を聞いた

「俺のツレをバカにするな!」


シンちゃんは僕を友達だと思ってくれている事をこの時知った。

この時からシンちゃんを友達だと思うようになった


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