世界の神秘(短編)
「ノア……?」



 いつまでも来ない痛みに疑問を感じたのか、薄目を開けて彼女が言う。やっぱり馬鹿だな、お前は。俺のことなんて、全然分かってないじゃないか。



「……本当に馬鹿な女だな。その頭が足りない所、早く直した方が良いぞ。」

「そっ、そんなに馬鹿馬鹿言わないでよ!」



 感情を堪えた瞳が、俺を睨み付ける。あぁ、これを言ったらきっと、俺はお前の努力を無駄にしてしまうんだろうな。でも、それで良い。最後にお前の表情を俺の中に焼き付けるのも、悪くない。



「……できる訳、ないだろう。お前に永遠は似合わない。短い一生を、せいぜいその馬鹿な頭で生きるんだな。
お前には、その方が似合ってる。太陽の下で馬鹿みたいに笑ってる方が、お前らしいよ。」



 ――彼女の涙腺は、当然の如く崩壊した。色気の欠片もない声を上げてわんわんと泣く彼女を見ていたら、少しだけ別れが辛くなった。



「何でっ……何で、あたしも連れてってくれないの!?ノアと一緒に居られなきゃ嫌っ!!」



 血を吸えば、永遠に一緒。吸わなければ、俺が先に逝き、彼女は絶望に暮れる。それでも俺が前者を選ばなかったのは……もう、理屈じゃない。俺自身にだって、よく分からないんだから。
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