世界の神秘(短編)
「あたしも、ノアに会えて幸せだった。ありがとう。
……あたし、死んだら来世でノアに会うつもりだから。絶対探してみせるから、闇夜に隠れたりしないでね?」

「……その時を、楽しみにしてるよ。」



 俺は、ここではない何処かへ行こうとしている。消えかけた体で交わした口付けは、そんな自分を満たしてくれた。おかしな話、だけど。初めての夜伽で彼女を抱いた日に、何だか似ている。

 これからどうなるのかは分からない。でも、彼女が言ったようにまた会える日が来れば良いのに、と考えている自分が居た。



「またな、香乃花。」

「……うん。またね、ノア。」



 消えてしまうというのに、怖いくらい清々しい気分。きっと俺達は、また会える。会えなきゃ許さない。誰を、って。それは勿論、この馬鹿な女を。そして自分自身を、だ。

 ――まさに、世界の神秘。こんな感情があるなんて、知らなかった。

 薄れゆく意識の中。俺が口元に浮かべたのは、確かに幸せの笑みだった。



fin.
→後書き
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