ナツ色の恋~最強男が愛した伝説の女~
あたしは辛かったことから、逃げたことがある。
無くしたものは、言葉に表せれないくらい、大切だったから。
『あんたが……』
逃げた道は、逃げなかった道と同じくらい辛かったけど、
逃げてよかったって思った。
死にたくても、生きててよかったよ。
そうキレイに思うあたしは、なんて図々しくて、哀れな生き物なんだろう。
『あんたさえいなければ、あたし達はずっと幸せだった!』
……あの子の幸せを奪ったのに。
あたしは、きっと幸せなんて感じちゃいけないんだろうけど…
ほんの少し、ほんの少しだけ…。
忘れたフリをさせて。
愛村は“あーっ”と少し恥ずかしそうにぽりぽりと首をかいた。
「やば、可愛いすぎ」
「はあ?あ、ずっとって…いつから?」
「……はじめて会ったときからかな」
「えー…」
「んだよ、その反応!」
「だって、すっごい微妙な顔してたもん」
そう答えると、愛村は目を見開いた。
「……覚えてるのか?」
「え、だって4月でしょ?」
「あぁ……確かにそうだな」
この一言が、小さくて大きなあたしの幸せを、かき消すとは思ってもみなかった。