たいよう
「…っハイっ!」
その声が聞こえた瞬間、手をだす。が、予想していた感触はなかった。俺はスピードを緩めて後ろを振り返った。
「…すいませんっ!」
手を合わせて、申し訳なさそうに走ってくる後輩、大希に気にするな、と声をかける。
「だって、たかにぃ…じゃなかった、空紘先輩、今日300の練習してて疲れてるじゃないですか」
未だコイツの敬語には慣れない。違和感がありすぎる。
「俺をなめんなよ」
と言って笑う。
「そーそ、たかはバケモノだからな」
と余計な事を言うのは勿論、舜。バケモノとはなんだ、とぐーで頭を小突いてやって、大希に言う。
「もう一本やるぞー」
「はいっ!」
そう言って、大希はまたスタートラインへと走っていった。コイツも大きくなったな、とかとしみじみ思う。
「たかにー、いいっすか?」
大希の言葉に、我に返る。結局抜けないもんだな、となんとなくホッとしてオッケーと手を上げる。