腐ったこの世界で
意外にも長引いている交渉にため息をつきながら、あたしは男に背を向けた。もう話す意志はない、って意味だったんだけど「どうして捕まったんだ?」こいつには分からなかったらしい。
「……足、悪いの」
仕方なく足枷のついた折れた方の足を見せれば、男は黙ってしまった。…ちょっと。散々話しかけといて黙らないでよ。
だんだん男の視線が恥ずかしくなり、あたしは足を隠す。それを見て男はよりいっそう、あたしの檻に近寄ってきた。
「君はあいつに買われたくない」
「はぁ?」
突然の言葉にあたしは男を振り返る。だけど予想外に真剣な目であたしのことを見ていて、あたしは何も言えなくなった。
男はもう一度、同じ言葉を繰り返す。「君はあいつに買われたくない」「う、ん。変態みたいだったし…」頷いたら男は微かに笑った。
「分かった」
その言葉と共に男は立ち上がる。そこでようやく、人買いとあたしを買うと言った男が近寄ってくることに気がついた。
「あ? なんだ、てめぇは」
見慣れない男の出現に、変態男が怒鳴る。だけど男はそれを無視して人買いの正面に立った。いきなりのことに人買いが戸惑った表情をする。
「あの、何か…?」
「彼女を買いたい」
指差した先に居たのはあたし。人買いと変態男は驚きのあまり、固まっている。先に正気に戻ったのは変態男だった。
「貴様! もういっぺん言ってみろ!」
その言葉に、男は優雅に変態男に微笑んだ。「彼女が欲しい」と言って。