腐ったこの世界で


週末はパーティーに出掛ける。それが日常になりかけていた。恐ろしい。少しずつ流されてる自分が恐ろしかった。
あたしは温室に据えられたソファーに座りながら、思わずため息を溢した。流されてる。というか踊らされてる。伯爵の手のひらで。

「お疲れですね」

ぐったりとしたあたしの様子にイリスが小さく笑った。クレアはあたしのために焼き立てのアップルパイを切り分けてくれている。

「さぁ、甘いものでも食べて心を落ち着かせてください」
「わぁ! ありがとう。ね、二人も一緒に食べよ?」

あたしがそう言って誘うと二人は困った顔をする。もちろんそんな顔をするだろうな、とは思っていた。
だけどそんなことで諦めるあたしではないのだ。

「お願い。伯爵に何か言われたらあたしから言っとくから」
「ですが……」
「一人で食べても美味しくないし。パイだってこんなにあるし」

そう言ってお皿に乗ったパイを見せつけた。そんなあたしに二人は折れてくれて、戸惑いながらも椅子に座ってくれる。
二人が席に着いたのを確認して、あたしは切り分けられたパイを口に運んだ。口いっぱいに頬張るあたしを、二人とも苦笑しながら見つめる。

「アリアさまは本当に甘いものがお好きですね」
「だってこんなに美味しいもの、食べたことがないんだもの」

言った途端、二人の顔が少しだけ歪む。だけどあたしは気づかないフリをした。
言ったところで過去は変わらないし、二人もあえてあたしの昔について聞こうとはしない。その優しさに甘えた。

「それを聞いたら料理人が喜びますね」
「夕食も張り切りますよ、きっと」
「本当に美味しいよね〜今から楽しみだなぁ」

そう言って思いっきりパイを頬張るあたしを、二人は姉のような眼差しで見る。それがなんだかくすぐったかった。


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