腐ったこの世界で


「……伯爵?」

手紙を読んだまま難しい顔をする伯爵の顔をあたしは覗き込んだ、そんなあたしに伯爵が微笑んだ。

「なんでもないよ。ちょっと鬱陶しい奴から面倒な手紙が来ただけだ」
「鬱陶しい奴……?」

爽やかな笑顔でなんとも物騒なことを言われたような……。変な顔をするあたしの前では、伯爵が難しい顔で黙り込んだ。

「何か良くない知らせですか?」

難しい顔をする伯爵にグレイグが聞くが、伯爵はやんわりと首を横に振った。

「いや。……舞踏会の招待状だ」

その言葉にグレイグがわずかに目を見開く。あたしは思わず顔をしかめた。
舞踏会は慣れた。というか慣らされた。伯爵が毎週末色々な舞踏会に連れて行くので、嫌でも雰囲気には慣れたのだ。
伯爵が連れて行ってくれるところは選んでいるのか、面と向かって嫌味を言われることはない。伯爵もあたしにくっついているので表面上は和やかなのだ。
だけど知っている。伯爵が居ないところで蔑む視線があたしを追いかけてくることを。

「行くの? その舞踏会に」
「うーん……」

珍しく渋る伯爵にあたしはおや、と思った。いつもは嬉々として参加するのに今回は行きたくなさそう。
そんなに相手が嫌なのだろうか。伯爵がこんなに嫌がるなんて、相手はどんな人なんだろう。ちょっと気になる。
グレイグも伯爵の表情が気になるのか、浮かない表情だ。伯爵の顔色を窺う。

「お断りしますか?」
「……それは難しいだろうな」

そう言いながらも伯爵は渡された手紙を忌々しそうに(それは本当に嫌そうに)ポイッと放った。その行動に優秀な執事であるグレイグは眉をひそめる。
だが主が密かにご機嫌ななめであることを理解すると、無言で退出した。あとにはあたしと伯爵が残される。


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