腐ったこの世界で
いっこうに機嫌が良くなる気配のない伯爵に、あたしの好奇心がむくむくと頭を持ち上げた。ついつい伯爵の顔を覗き込んでしまう。
「どこの家からの招待状だったんですか?」
「ん? エーリアス公爵家からの招待状だよ」
「へぇ、公爵家から……」
……ん? 公爵家って言った?
あたしは何気なく言われた伯爵からの一言に文字通り固まる。
公爵と言えば上流貴族の中でも最上位に位置する。さらに王族の血を引いた者のみが名乗ることが出来ると聞いたような……。
「……公爵家から招待状が来たんですか?」
「そうだよ」
「…………行くんですか?」
「まぁ、そうだね」
公爵家からの正式な招待状だ。断ることなど不可能だろう。そう思いつつもあたしは少しの望みをかけて伯爵の顔を見つめた。
「それって、あたしも……?」
消えそうなほどか細い声。そんな私の声に顔を上げた伯爵と目が合った。
しばし無言で見つめ合うあたしたち。やがて伯爵は机に放られた手紙を取ってあたしに寄越した。
「宛名のところを見てごらん」
「宛名……?」
言われるままそこに目を走らせ、思わず息を呑む。そこには[ルーシアス伯爵、ならびにレディ・アリアさま]と書いてあった。
固まるあたしに、伯爵が追い打ちをかけるように止めの一言を放つ。
「向こうは君が来ることを望んでいるみたいだ」
すまなそうな声も、何の慰めにもならない。じとりと恨みがましく睨んでも、伯爵は困った顔をするだけ。
分かっている。公爵家の正式な招待だ。よっぽどのことがなければ断ることなどできないだろう。
「嫌?」
「いや、っていうか……」
そんな場所にあたしなんかを連れていって、伯爵は困らないのだろうか。公爵家のパーティーに来る人たちだもん。きっと偉い人ばかりのはず。
そんな人たちにあたしと一緒に居るところを見られて、恥ずかしくないのかな。