腐ったこの世界で
あたしみたいのを連れていて、伯爵が何も言われないわけがない。面と向かって言われることはなかったとしても、絶対に影で言われてると思う。
あたしは伯爵に感謝している。だから伯爵が困るようなことはしたくないし、伯爵の足を引っ張るような真似もしたくない。
「アリア?」
黙り込むあたしを伯爵が気遣わしげに見る。たぶん、伯爵はあたしが怖じ気づいているんだ、と思ったんだ。それも間違いではないけど。
「あたしが一緒でいいの?」
「え?」
「恥ずかしかったりとか……」
言った途端、あたしはギクリと固まった。なぜなら伯爵がすごい顔であたしのことを見たから。
思わず石のようになるあたしに構わず、伯爵が身を乗り出す。逃げようとすればあっさりと捕まった。
「君は自分のことを恥ずかしい人間だなんて思ってたのか?」
「っ、」
「少なくとも僕は、一緒に居て恥ずかしいと思ったことは一度もない。思うはずがない」
それが真剣な言葉だって分かるからこそ、あたしは何も言えなくなった。
伯爵はあたし以上にあたしのことを考えていて、そして認めてくれた。それなのにあたしは疑ってしまったんだ。そのことがどうしようもなく恥ずかしい。
「…ごめんなさい…」
謝るあたしを伯爵が抱き寄せる。いきなりのことにあたしは固まったけど、それが慰めるような包容だったので、あたしは素直に身を任せた。
「言っただろう? 僕は君を見せびらかせたいんだ。素敵な君をね」
それもどうかと思うけど。でもあたしは反論せずただ小さく頷いた。そのことに伯爵は嬉しそうに笑う。
「そうと決まったら新しいドレスを作らなくては!」
「ドレスはいりません! まだ着てないのがたくさんあります」
「じゃあ何か靴でも、いや、ピアスかな? 髪飾りでもいいな……」
伯爵はどうしてもあたしに何かを買いたいらしい。一人で張り切る伯爵にいらません! と叫んであたしは部屋を飛び出した。