腐ったこの世界で
夕食は珍しくサンルームに用意されていた。と言っても今は広い窓にはレースのカーテンが引かれ、天窓だけが外の景色を写している。
落ちてきそうなほどの星空がそこには広がっていた。あたしはバカみたいにそれを見上げながら中へと入る。
「そんなに珍しいかな」
「っ、」
急に声をかけられて驚いたあたしは、段差を踏み外した。傾いだ身体を背後から伸びた腕が支えてくれる。
背中に温かな伯爵の胸が当たった。それにちょっとびっくりしてすぐに離れる。
「気を付けて。転んだら大変だから」
さりげない動作で腰を浚われ、椅子に座らされる。あまりにも自然だったので、あたしはされるがままに座ってしまった。
伯爵は向かい側ではなく、あたしの隣に座る。今日はいつもの長テーブルではなく正方形のテーブルではなので、伯爵の顔がよく見えた。
「さて、食べようか」
伯爵の言葉で給仕係が食事を運び、飲み物をグラスに注いでくれる。さすがにマナーには慣れたけど、今日はいつもとは違う食事方法に戸惑った。
「あのぅ、伯爵?」
「うん? なんだい?」
「なんで急にここで夕食を……」
あたしの疑問を聞いて伯爵が少し考えるように視線を宙に浮かせる。それから柔らかく笑った。
「たまにはいいだろう? いつもの場所は遠すぎるから」
「っ、」
そう言って伯爵は私の手を取った。あたしはただ固まる。
まずい。心臓が暴れてる。視線を外したのは、伯爵を見ていられないからだ。
伯爵の思わせ振りな行動に動揺してはダメ。深い意味はない。考えたら敗けだ。
そう思うけど、思えば思うほど顔が熱くなるのを止められなかった。