腐ったこの世界で
檻の向こう側で人買いがニヤニヤ笑っているのが分かる。思わぬ収穫に喜んでいるのが丸分かりだ。
「良かったなぁ。熱心な貴族さまに買われて」
その下卑た笑みに舌打ちをしたが、人買いは何もしてこなかった。あたしは入っていた檻から引き出され、足枷を外される。
急に軽くなった足に驚いた。もう長い間、足枷をつけて生活をしていたから。痛む足を引きずりながら、あたしは伯爵の前に立つ。
「感想は?」
感想? 外に出た感想ってこと? 「まだ分かんないよ…」だってまだ夢を見ているみたいなんだもん。自分が足枷もしないで立ってるなんて。
呆然としているあたしを見て伯爵が嬉しそうに笑った。その笑顔を向けられて、なんだか緊張する。だけどあたしが足を引きずっているのを見て、伯爵は眉をひそめた。
「どうしたの?」
「君の足……」
言われて気づく。少し痛いけど歩けないほどではない。歩きにくいけど。「別にだいじょ――わっ!」平気なところを見せるために歩こうとしたら、急に体が持ち上がった。
見下ろせば伯爵の顔。なぜかあたしは伯爵の腕に座らせるように抱き上げていた。……なぜ?
「なんであたしは抱き上げられてるんでしょうか」
「足が痛いんだろう? 遠慮することはないよ」
むしろ恥ずかしいから降ろしてくれっ! あたしは思いっきり睨み付けたが、伯爵は爽やかに微笑み返してきた。