腐ったこの世界で
Ⅰ・そして伯爵に拾われた。

*奴隷




独特の腐臭が鼻を刺激し、あたしは思わず顔をしかめる。一歩下がれば、足枷が嫌な音をたてた。

「ほら、歩け」

門番と手続きしていた男は手に持つ足枷の鎖を強引に引っ張る。あたしは倒れそうになりながら、男の後についていった。

薄暗い建物の中はたくさんの人の気配がする。上等の服を纏った人と、ボロボロの服を着た人。ボロボロの服を着た人はあたしと同じように足枷をつけられている。
やがて男は宝石をやたら身に付けた男の前で立ち止まった。その男はあたしを値踏みするような目で、撫で回すように見た。こいつが誰かなんて言われなくたって分かる。

「中々の器量良しだろ?」
「…歩き方が変だが?」
「足が悪い。俺が何かした訳じゃないぞ」

言い訳を口にした男を、あたしは思いっきり睨む。嘘つき。あんたがあたしの足の骨を砕いたくせに。
あたしの咎めるような視線に気がついたのか、男は足枷の鎖を思いっきり引っ張った。いきなりのことにあたしは踏ん張れず、顔から転ぶ。

「止めてくれ。こいつは今から私の商品なんだからね」

その言葉であたしは自分の立場を理解した。


ここは奴隷市場。
人間が商品として売り買いされる場所。



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