腐ったこの世界で


一人だったら絶対に迷子になりそうな屋敷の中を、前を歩く侍女さんを頼りに進んでいく。あたし、自分の部屋どころか出口にすら辿り着けないかも。
そんな不安を抱きながら屋敷の中を歩けば、一つの部屋に通された。天窓が大きくとられたその部屋は、太陽の光で溢れている。

「旦那さま、お仕度が整いました」

その一言で、この部屋にあの伯爵が居たことを知る。伯爵はあたしを見て、驚いたように目を見開いた。

「……なに」
「いや…足に負担がかかるだろう。座って」

逸らされた視線が気になったけど、足が痛いのも事実だったのであたしは伯爵と向かい合うように座った。
すかさず侍女の一人が飲み物の準備を始める。あまりの手際の良さにあたしは感心してしまった。
さすが伯爵家の侍女。所作が丁寧で速い。

「旦那さま、いらっしゃいましたが」

軽いノック音の後、先ほどあたしを睨んだ執事さんが部屋に入ってくる。「あぁ、こちらにお通しして」伯爵の言葉に執事さんがまた扉の向こう側に消えた。

「お客さん?」
「あぁ」
「じゃああたしはどっかに…」
「いや、君がいないと意味がない」

伯爵の言葉にあたしは首を傾げた。どーゆーこと?


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