腐ったこの世界で
*そして生まれ変わる。
馬車を降りた瞬間、あたしの胸には深い後悔が訪れた。忘れてた。伯爵に関わることには相応の覚悟が必要なのに。
あたしの目の前には高級そうなお店がずらりと並んでいた。明らかに敷居が高そうなそれらに、あたしの足は完全に固まる。
「どうした?」
「ここはどこ」
「仕立屋」
どうやらあたしの見間違いではなかったらしい。目の前のお店ではキラキラ輝いた淑女のみなさんが、楽しそうに店の中を徘徊していた。
伯爵は立ち止まるあたしの背中を押し、有無を言わさずに店の中に入る。入るとすぐに動きやすそうな裾の短いドレスを来た針子のみなさんがやってきた。
「いらっしゃいませ」
「とりあえずこの子に似合うドレスを5着、夜会用のドレスを3着とナイトウェアを2着頼むよ」
あたしはぎょっとして背後の伯爵を振り返る。そんなに買うの!? っていうかとりあえずがその量なの!?
だけど針子のみなさんはそんな注文に慣れっこなのか「かしこまりました」と言って驚いて動けないでいるあたしをフィッティングルームに連れていった。
すぐに着ていた服を全部脱がされ、下着一枚にされる。針子のみなさんはあたしのことを気にした様子もなく、どんどん寸法を取っていった。
「見て! この子、すごい腰が細い!」
「でも胸元も……」
「全体的に華奢ね。ドレスの型にバリエーションを持たせましょうか」
すみません…。貧相で。あたしは自分の絶壁に等しい胸元を見て、悲しくなった。