腐ったこの世界で
あたしは怒濤のごとく寸法を測り、くたくたになってから解放された。だけどすぐに伯爵に手を引かれ、別の店へと連れていかれる。
靴や手袋、帽子や上着類までありとあらゆる物を調達し、果てはベッドやらチェストまで買い込み始めた。あまりの量にあたしは何も言えなくなる。
「他に欲しいものはあるか?」
「もう十分だよ!!」
一生分の買い物をした。信じられないくらいのお金が一日で飛んでいった気がする。だけど伯爵はまだ不満そうなのだ。
そんな伯爵を見て、あたしはなんとなく分かった。この人は世話を焼くのが好きなのだ。たぶん。
「君がそう言うなら良いけどね」
とりあえず買い物は打ち止めになったらしい。そのことにあたしは安堵した。そしたらどこからか良い匂いがしてくる。
周りを見回せば離れたところにお店を見つけた。何かを焼いているみたいだけど、あたしは字が読めない。だからあれが何のお店なのかも分からなかった。
「気になるものでもあった?」
「…あれ…」
あたしが指差す先を見て伯爵が目を丸くする。それから小さく笑って「食べたい?」って聞いてきた。
漂ってくる甘い美味しそうな匂い。食べたい。食べてみたい。
頷いたら伯爵は御者を店に向かわせた。その人はすぐに皿を持って戻ってくる。
「はい」
「あ…」
手渡されたそれは、あたしが初めて見るものだった。