腐ったこの世界で
勉強。それはあたしに一番縁遠かったもの。必要なかったものとも言える。
「…勉強」
「そう、勉強だ」
なんで伯爵はこんなにも満足そうなのだろうか。あたしが勉強を嫌がるとでも思ったのか。「分かった。やる」従順に頷いたのが意外だったのか、伯爵は驚いた顔をした。
あたしはどんな形でも、やることがあれば良いのだ。金で買われたのだから、それに見合った働きをしたい。
「やる気なら良かった」
頷いたあたしに伯爵も笑った。そうしている間にも荷物はどんどん運び込まれ、部屋の中が片付けられていく。
「なんかすごいね…」
「欲しいものがあったら何でも言ってごらん?」
まるで親戚のおじさんみたいな言葉。お金はたくさん飛んでいったけど、伯爵が満足そうだから気にしないことにした。
あたしは伯爵に買われたんだし、伯爵のやることについていこう。あんまりにも金遣いが荒かったら止めるけど。
「レオンさま、飲み物が用意できました」
気がつけば背後に銀のトレイを持ったクレアが立っていた。トレイにはティーカップとお菓子が乗っている。あたしは思わず目を輝かせた。
「アリアさまはお菓子が気に入られたようですね」
あたしの表情に気がついたらしいクレアは、おかしそうに笑う。だってあんなに美味しいもの、今まで食べたことなかったんだもん。
クレアは運び込まれたばかりのテーブルにそれを広げ、美味しそうな紅茶を淹れてくれた。あたしはそれを飲んでからお菓子を頬張る。伯爵はそれを楽しそうに見ていた。